売掛金の集金方法が「手集金」である場合、ファクタリングの利用は少し難しくなってきてしまうのが現状です。
その大きな理由としては「通帳にお金のやりとりが記載されないため」です。
つまり売掛債権を購入するファクタリング会社からしてみると、本当に売掛金が存在するのかということを確かめるための大事な材料が1つ減ってしまうということです。それはファクタリング会社にとって大きなリスクとなってしまうのです。
この「本当に売掛金が存在するのか判断するための材料」は非常に重要なものとなります。
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手集金では債権の存在を確認しにくい
口座への入金ではなく手集金で売掛金を回収している場合、その売掛金をファクタリング会社に売却することはかなり難しくなってしまいます。
売掛金が売掛先より支払われる際に、口座に入金されれば入金履歴が残ります。これにより第三者から見ても、どの取引先といつ、どのくらいの金額の取引が行われているのかを判断することができます。
しかし手集金の場合、口座に履歴が残りません。つまり第三者目線から見ると、誰と誰がどのくらいの金額で取引を行っているのかがハッキリ分からないのです。
つまり、いつも手集金で売掛金を回収している事業者がファクタリングの利用を希望したとします。審査をするためにファクタリング会社が事業者の口座を見せてもらったとしても、口座に記録が残っていない場合には取引先と継続的な仕事のやりとりがあるのかどうか、また、毎月しっかりと売り上げが経っているのかどうかを判断する材料が1つ減ってしまうのです。
ファクタリング会社としては「この売掛債権は確実に存在する。そして売掛金は必ず売掛先から入金される。売掛先の経営状況も問題ない。」と周りを固めてから債権の購入に動きたいものなのです。
その判断材料が少しでもかけることで、ファクタリング会社は判断に迷ってしまうことになります。もともとファクタリングの契約はファクタリング会社にとってリスクのあるものなので、不安を感じた段階で審査で落とされる可能性が高まるのです。
事業者
ファクタリング会社
このように、いくら事業者が債権の存在を主張したとしても、それを鵜呑みにすることはありません。
少し角度を変えて考えてみる
ファクタリングから少し離れて例を挙げてみたいと思います。
たとえばですが、あなたが道を歩いているときに、まったく知らない人から声をかけられたとしましょう。
知らない人
50万円貸してくれないか?
もし50万円貸してくれたら、来月入ってくる100万円をそのままあげるから。
このような状況になったとき、この知らない人に50万円を渡す人がどれだけいるでしょうか?
- 来月100万円が本当に入ってくるのか?
- 50万円を渡して、100万円になって帰ってくる保証が何もない
- 知らない人にお金を1円も渡したくない
- そもそもおまえは誰だ
このようにほとんどの人は考えることでしょう。
お金を利用して商売をしている業種である銀行や消費者金融、そしてファクタリング会社も同じように捉えることでしょう。
結果として、この状態では怪しいと考えお金を渡す人はいないことでしょう。
しかしもしこの知らない人が、以下のようなものを提示してきたらどうでしょうか?
- 身分証明書
- お金の代わりとなる価値のあるモノ
- 知らない人を保証する人物
これらを提示してくれた場合、もしかしたらその知らない人に対してお金を融通する人もいるかもしれません。
まさしくこれが銀行やビジネスローンで資金調達をするのと同じ理屈となるのです。
話は少しそれましたが、ファクタリング会社からしてみても債権を売却したいと問い合わせてきている事業者に対して、対象となる債権が本物であるという判断材料が欲しいのです。
そしてその材料となるのが「取引先との口座上での取引履歴」となるわけであり、それを提示できないということは、ファクタリング会社にとってリスクとなるのです。
ファクタリング会社の最大のリスクは偽物の債権を掴まされること
ファクタリング会社にとっての最大のリスクは「偽物の売掛債権を購入してしまうこと」です。
購入した売掛債権が偽物である場合、期日になってもお金は入ってきません。よって事業者から売掛債権を購入したときに事業者に渡したお金がすべて損になってしまうのです。
質屋と同じようなシステム
同じような例を出して説明したいと思います。
たとえば質屋。ある個人が持っている宝石を質屋に持ち込んだとしましょう。質屋はその宝石がどの程度の価値があるのかを鑑定します。そしてそれを店頭に並べた際に100万円で売却することができると判断したら、100万円以下の数字で買取の提案をすることでしょう。
女性
質屋
ふむふむ・・・、この宝石であれば70万円で引き取らせていただきますがいかがでしょうか?
(おそらくこの宝石は店頭に並べれば100万円で売れる。70万円で買い取ったとしても売れれば30万円の利益になる)
女性
質屋
しばらくして
質屋
70万円渡してしまったから、この宝石が売れたとしても67万円の損失となってしまう。
女性が持ち込んだ宝石が100万円の価値があると判断し、70万円で購入したわけですが、実際には3万円の価値しかなかったということです。
つまり宝石を購入する時点で、本物であるか偽物であるかの判断ができなかったということです。
結果として30万円の利益を予想していたのに67万円の損失を出してしまうことになったのです。
ここで誰が悪くなってしまうのか。基本的には鑑定した質屋のミスとなってしまうのです。
ではどうすれば今回のミスを防げたのでしょうか?
たとえば宝石が本物であるという裏付けが取れていれば、今回のようなミスは防げたかもしれません。たとえば保証書や鑑定書です。
つまり宝石が本物であるという判断材料が多ければ多いほど、質屋が宝石を買い取る段階で鑑定のミスを防ぎやすくなるということです。
ファクタリングも似たような感じとなります。
事業者
女性
では売掛債権が100万円とのことですので、80万円で買い取らせていただきますがいかがでしょうか?
(事業者の話からすると、毎月手集金で売掛金を集金しているとのこと。もう何年もこの方法で取引をしているとのこと。)
事業者
女性
しばらくして
女性
取引先の帳簿を見せてもらっても、事業者との取引の実態をつかむことができない・・・。
予定していた日に、事業者からファクタリング会社にお金が戻ってこないことがあります。この段階でファクタリング会社は偽りの債権を掴まされた可能性を実感することになります。
基本的にはファクタリング会社のミスとなります。
2者間ファクタリングの場合、事業者の取引先には連絡をしません。それが2者間ファクタリングのメリットであるためです。そのため、事業者が売却しようとしている売掛債権が本物であるかどうかを確認する方法は、その債権に関わる注文書や納品書、請求書なども取引上発生する書類であったり、取引先とのお金のやりとりのある通帳の履歴、あとは事業者本人の言葉となるのです。そのほかにも取引先の会社としての信用度をチェックします。
売掛金を手集金している場合、これらの書類が欠損しているケースが多くなります。つまりファクタリング会社にとっては、判断材料が減ってしまうのです。結果としてファクタリング会社が行う審査をすり抜けて、本来存在しないはずの売掛債権を購入してしまい、損失を出してしまうファクタリング会社もあるのです。
償還請求権がないため泣き寝入りするしかない
ファクタリング契約は償還請求権が基本的にはありません。ノンリコース契約というものです。
つまりファクタリング会社が事業者から債権を購入しお金を渡したとします。その後、何かしらのトラブルで事業者からファクタリング会社にお金が戻されないことになったとします。この場合、事業者はファクタリング会社から受け取ったお金を戻す必要はないのです。そのためファクタリング会社としては泣き寝入りするしかありません。
これが償還請求権のない契約というものです。
参照 償還請求権について
はじめから騙す気でいる場合
ファクタリングの契約は償還請求権のない契約となりますが、はじめから事業者が債権を偽物であると認識していた場合には、償還請求権の対象とならない可能性があります。
それどころか、偽物を売却したわけですから詐欺に該当する可能性が出てきます。
つまり売却しようとしている債権が、はじめから偽物であるとわかっているのか、それともそうではないのかによって変わってくるのです。
経験のあるファクタリング会社は偽りの債権を見破る
経験のあるファクタリング会社の場合、今までありとあらゆる債権を扱ってきているため、滅多なことでは偽りの債権を掴むことはありません。
そもそもですが、偽物の売掛債権を持ち込む事業者がいるのか?という話ですが、業界関係者に話を聞くと、数件に1件はどう考えても存在しない売掛債権を持ち込む事業者、もしくは事業者のふりをしている人からのコンタクトがあるとのことでした。
とはいえ、大抵の場合は審査でうまくはじいているそうです。
ところが、審査をうまくかいくぐってしまうことも稀にあるそうです。結果として損失につながってしまうとのことです。
ファクタリングの性質上、1度の失敗が会社経営の危機に立たされてしまうことがあるのです。
手数料商売の弱み 1度のミスで経営が傾くことも
ファクタリングは手数料商売です。利益を出すためには大きな金額を動かす必要があります。そのため、一度の失敗で大きな損失を出しやすいのです。
たとえば手数料を20%と設定している場合。100万円の債権を購入したら20万円の利益を得ることができます。これを何度か繰り返したとしましょう。
- 1回目の取引
100万円の債権購入・・・20万円の利益(合計20万円の利益) - 2回目の取引
100万円の債権購入・・・20万円の利益(合計40万円の利益) - 3回目の取引
100万円の債権購入・・・20万円の利益(合計60万円の利益) - 4回目の取引
100万円の債権購入・・・20万円の利益(合計80万円の利益)
4回目の取引までにファクタリング会社としては80万円の利益を出すことに成功しました。
そして5回目の取引の際。いつもと同じように100万円の債権を購入したとします。予定としては20万円の利益を得られるはずでした。ところが事業者から予定日になってもお金が送られてくることはありません。
事業者に連絡をしても連絡が取れません。つまり結果として5回目の取引では100万円を失ってしまうことになります。
- 5回目の取引
100万円の債権購入・・・事業者から送金ナシ・・・100万円の損失(合計20万円の損失)
4回目までの取引で80万円の利益を上げていたファクタリング会社ですが、5回目の取引では100万円の損失を出してしまったため、結果的にマイナス20万円となってしまったわけです。
ファクタリングのような手数料商売はこのようなことが発生しうるのです。大きな利益を上げるためには、まず大きな金額を事業者に渡さなければならないのです。
他の資金調達ではこのような状況に陥りにくいのです。なぜなら担保や保証人を取っているためです。もしお金が戻ってこなかったとしても、担保や保証人を利用することで損失が出にくくなっているのです。
しかしファクタリングは貸金業ではありません。担保も保証人もとれません。さらに償還請求権のない契約形態です。その分リスクが高くなるのです。
手集金でも債権の存在を証明できれば可能性はある
このように債権が本物であるのかどうか、しっかり実在しているのかどうかが大きなカギとなります。
その面から考えてみると、手集金で売掛金を回収している場合には、ファクタリング会社に対して債権の信ぴょう性を示す根拠が弱くなってしまいがちです。
すべてとは言いませんが、ファクタリング会社によっては手集金という理由で契約を遠慮されてしまう可能性があります。
そのためもし今後ファクタリングの利用を考えているのであれば、なるべく口座を通した取引をしたほうがよいかもしれません。